佐野与八郎政親(2)佐野与八郎政親(まさちか 41歳 1100石)は、西丸・目付になって満5年近くになる。
目付という職掌がら、口が重い。
その政親は、弟あつかいをしている銕三郎(てつさぶろう 27歳)に、父・平蔵宣雄(のぶお 54歳)が京都西町奉行に取り立てられる風評が、すでに西丸の上層部でもひそかに流れていると漏らしたばかりか、この京都行きには、幕閣から内々の密命がこめられるらしいことを、暗に告げた。
帰宅した銕三郎は、まわりに人の気配がないことをたしかめ、宣雄に話すと、
「番方(ばんかた 武官系)できたわしに、役方(やくかた 行政官系)がつとまるとはおもえぬ」
宣雄は否定はしないで、勤務がきびしいことを匂わせた。
「それはそうでしょうが、番方から役方にまわられた衆は少なくありませぬ。げんに、京都西町ご奉行・太田播磨守正房(まさふさ 59歳 400石)さまも、わが家とおなじ両番の家筋です」
宣雄は、言っても仕方がないとおもったのであろう、太田正房は、実は分家・支家一門の多い水野の家系の五左衛門忠意(ただもと 享年35 500石)の次男で、太田家に養子に入り、そこのおんなを妻したことまでは、教えなかった。
女系のことをいうと、嫁・久栄(ひさえ 20歳)にも、奥どうように遇してきている銕三郎の母・妙(たえ 47歳)にも、余計なおもわくを与えることもばかったこと。
銕三郎は、そうした父の思慮にまではおもいがいたらない。
なおも、京師東町奉行・酒井丹波守忠高(ただたか 61歳 1000俵)も両番の家筋だから、父上が任命されても不思議はないと言いはる。
よほどにうれしかったのであろう。
ついでに口をすべらせた。
「佐野の兄上は、老・若(老中・若年寄)方から、特別任務が密命されようとも---」
「銕(てつ)。口が軽すぎるぞ。与八郎どのは、伊達に目
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