暁の明星 宵の流星 #75話し合いは夜明けと共に終わった。
皆の心配をよそに、百蘭(びゃくらん)はあっさりとこう言った。
「ならば寺からいなくなった、という事になさればよいのでは」
「ええ?でもそうすると百蘭が…」
「私の事はどうかご心配なさらずに。…私も常々、セド王家のやり方に不満がありましてね。
いつかはキイ様を、アマト様にお返ししようと、ずっと考えておりました…。
ただ、セド王家の目や、キイ様の“気”の様子などで、なかなか実行が難しかったですが…。
ですが、こう上手くいくと話は別です、アマト様。
キイ様をここに連れ出し、また大法師様に会わせる事は、一世一代の賭けでございました。
私も今が絶好の機会と思います。これを逃したら…いつこのような好機が訪れるか、わかりません」
不安げに自分を見るアマト達に、百蘭は安心させるように微笑んだ。
「実はこういう事もいずれは、と想定して、私ども…、ええ、弟子や自分の家族もですが、すでにセドの国から出させてあります。…大国も手を出せぬ、中立国のゲウラにです。…あの国に、きちんとした手続きを済ませ、永住権を取ってしまえば、いくらセド王家でも手は出せません。…確かにゲウラの永住権を取るのには、かなりの年月がかかりましたが、…いや、間に合ってよかった」
「中立国に」
「…はい。そして私はキイ様が、神隠しにでもあった、とでも大騒ぎしましょうか。…実はこの村ではそのような伝説もありましてな。…子供が消える、という…。まぁ、普通に賊にでもさらわれた、としてもいい。
……多分、私はこの責を取らされ、国外追放になるでしょう」
百蘭がそこまで考え、用意周到に事を運んでくれてるとは、思ってもみなかった。
「いや、私はですね…。祖国を愛しているのですよ…。本当は王家で、こんな事をして欲しくなかった。
キイ様を見ていて、彼の事は、国の、いや一定の者だけの野望の道具としてはいけない、と思っていました。
これは地に住む我々にもたらされた天の宝です。
大切に扱わなければ、それこそ罰が下る」
百蘭の決意に皆はうなだれた。
だからこそ、ぎりぎりの所でも、この百蘭に疑いがかからないようにしたい…。
なのでこのままキイを連れ去るよりも、一度寺に戻し、護衛の隙を狙って連れ出す事になった。
そうして百蘭はキイを守れなかったと、錯乱するふりをして、護衛と共にセドに戻ってもらう事になった。
特に大陸で重宝される気術者の百蘭には、彼が言ったとおり、刑が一番重くて国外追放だろう。
それならそれで、彼には好都合である。
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