若松町にて
この街というのは外れにある。
確かに自分の記憶ではそうなっている。
昔も今も風俗店が立ち並ぶ路地があって、一見行き止まりと思えるその路地の先は、
遥か上空にポツンと建つ寺院の裏手へ続く石段になっている。
長い石段を登ったガケの上は、下町を見下ろす墓地である。
だから、まっすぐ階段を上がっていく人は滅多にいない。
夜ともなれば、たくさんの人影が路地の奥でユラユラと曲がる。
そういった曲がり角はガケ下一帯にあって
面白がって曲がっていると、又フリダシに戻ったりする。
路地を入ってちょっと行った右には、オスワ様の石段がある。
神社の境内には、時おり足のない傷痍軍人が座っていて、
やや音程の狂ったアコーディオンを弾いていた。
そんな記憶もある。
ネオンの谷間にある遊戯場で、同い年の従兄弟と遊んだのは
もう40年くらい前だったかもしれない。
金物店の息子である彼は、昔、卓球の選手だった。
その卓球場は1回きりしか行かなかった。
入り口の良く分からないビルの2階の1室にあった。
裸電球が一つだけ。
異様に薄暗い室内で、打っている球さえ、ときどき見えなくなる。
何でこんな暗い場所で、と随分不思議な気がした。
入る時に降っていた霧雨は、上がっていた。
結局引き分けになったと思う。
ゲームが済んで店を出ようとすると、
入り口はもう閉めたから、非常階段から出るように云われた。
非常口を開いたとたん、目の前にまぶしいネオンサインの点滅。
余りにまぶしくて、何色だったかまで思い出せない。
夕暮れの街角は、すでに変容を始めており
風景全体が滲んで、建物のタテとヨコがどうもおかしい。
足元の方に、あるはずのない鳥居が見えた。
(2009.06.25/イチロー記)
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