さようならアンドレ・アガシ

 物事には始まりがあれば、必ず終わりがある。USオープン7日目の日曜日、3回戦で快進撃を続けるまだ無名の若きベッカーにA.アガシはフルセットの末に敗れ、遂に現役生活にピリオドが打たれることになった。その瞬間を見れなかったのは、痛恨の極みであるが、36歳とは思えない少年のような表情のアガシの写真には、胸が熱くなるものがある。

アガシのデビューは20年も前の話。その頃の僕といえば、テニス少年ではなく甲子園を夢見る野球少年で、夏場に幼なじみの友達のオヤジさんに菅平に連れて行ってもらっては、テニスのコーチをしてもらうものの、上手くいかないもんで直ぐに飽きて、テニスはいつしか野球へ変わってしまう…そんな頃だった。

長髪にバンダナ、派手なシャツの破天荒なスタイルは紳士なスポーツであるテニス界では異端児扱いをされて有名だったが実力も折り紙つきだったが、僕が本気でテニスを始めた中学生の頃は、スマートなストローク&ボレースタイルのエドバーグが好きで、カッコつけに見えるアガシという選手には、全く興味が無かった。しかし、不思議なもので、『エドバーグの一番思い出に残る試合といえば?』と問われると思い出せはしないが、『アガシは?』と聞かれれば、真っ先に脳裏によみがえってくる印象深い試合がある。

1999年全仏

テレビ中継がNHKであるウィンブルドンは昼間にダイジェストもあって良く見たが、クレーの全仏は深夜だったし、あまり興味が無かったのだが、大学4年で就職活動しながらの大学のオープンに出場で、3回戦で2年生の新鋭に躓きあっさりと終わらせられた大学テニスで、何となくポッカリ空いたものを埋めるべく見た決勝戦。そこには中学生のときに見た破天荒なアガシではなく、真摯な姿勢でテニスに打ち込むアガシがいた。

この年の全仏は異常に暑く、見ている観客も倒れるほどで、選手ですらコートのあちらこちらで試合中にも関わらず、吐き気をもよおす程の消耗戦となった。そんな大会を、2セットダウンから大逆転でアガシが制す。グランドスラムの偉業と共に、スキャンダルとスランプから必死に這い上がってきた男を、詰め掛けた満員のファンが迎える。

天高く輝く太陽がいつしかオレンジ色に変わる頃、表彰式が始まり、惜しみない拍手が送られる中で、遂には堪え切れず溢れ出るアガシの涙に、貰い泣きしたのを覚えている。


数年後の遺伝子に期待しながら、
私はあなたの再登場を待っていますから、
今はゆっくりとお休み下さい。

長い間お疲れ様でした。


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2006/09/05




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