#67 試作品翌日。
あたしはサムに早退のお願いをして、午前中の仕込みをしただけでサムのアパートを出た。
地下鉄に乗って、タイムズスクエアを横切って、一直線にブライアント・パークまで走っていった。
ランチタイムのパークは、いつものようにビジネスマンやら学生やらでにぎわっている。五月の明るい陽だまりの中、思い思いにランチを広げている。
「怜奈っ!」
アイスクリームショップの前に、怜奈がたたずんでいる。あたしをみつけると、たちまち笑顔がこぼれた。
「夏輝! うわーっ、ほんとに元気そう!」
あたしが駆け寄って飛びつくのを受け止めて、怜奈も嬉しそうに声を上げた。
「びっくりしたよ。『明日そっちに行く』とかじゃなくて『いまこっちに来てる』なんて言うんだもん。まったく、どういうこと?」
「ごめんごめん。びっくりさせようと思って」
怜奈はちょっとだけ決まり悪そうな笑顔になった。
その瞬間、あたしは直感した。
怜奈。何か、あったんだな。
結婚、のことかな・・・・・・
あたしたちは、エンパイアステートビルが眺められる芝生の真ん中に並んで座った。
「それで、どう? 修行の成果は」
怜奈に言われて、あたしはにこっと笑い返した。そして、トートバッグの中から茶色い紙袋を取り出した。
「はい。これ、食べてみて」
怜奈の両手に、ぽん、と紙袋を乗せた。
「あったかい・・・・・・」
怜奈はつぶやいて、袋を開けた。がさがさと、手を差し入れる、
「わあ」
ほかほかの、プレーンベーグル。
「これ、夏輝が?」
あたしは、こくん、とうなずいた。
怜奈は手にとって、まるで骨董品でも検分するみたいに、いろんな角度からそれを眺めた。あんまりていねいに鑑賞するもんだから、あたしはなんだか照れくさくなってしまった。
「やだなあ。そんなたいしたもんじゃないよ」
「だって、夏輝の作った夢のベーグルでしょ?すみずみまで、よく見たくて」
思う存分眺めたあと、「いただきます」と両手を合わせて、ぺこんと頭を下げた。それから、ぱくん、と勢いよくかじりつく。
あたしは内心、どきどきだった。
実は、まだ松井にもアンドリューにも試作品を食べてもらっていない。唯一、サムだけが食べていた。
「なかなかいいね」と言ってくれていたが、まだまだなんだ、とわかった。
「サイコーだよ」の一言が出るまで、完成じゃない
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