16 土岐の嗅ぐモノ伊能はサラマンダーを出ると、左右を見渡した。
パトカーはいなくなっていた。
やくざ風の男たちが数人たむろしていた。新宿では当たり前すぎる光景だ。
右へ行けば駅の方に行くのだが、伊能は左に向かって早足で歩きはじめた。
そちらの方向はパチンコ屋のネオンや風俗店の派手な看板がひしめく、歓楽街になっている。
伊能は小走りになって、ずっと先の人込みまで見ようと目を細めた。視力は両目とも1.5だ。
カンにまかせて、胡散臭そうな匂いのする方向に向かって急いだ。
5分ほどで、伊能は探していた人間の後姿を捉えた。
男は広い肩にひっかけるようにジャケットを羽織っていた。
左肩が少し下がり、外股に歩いている姿は堅気のサラリーマンには見えない。
肩の向こう側にときおり白い煙が立ち昇るのはくわえ煙草をして歩いているようだ。
伊能は走って後ろから声をかけた。
「土岐さん、すみません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが……」
土岐は立ち止って伊能を見た。
その顔にはどんな表情も浮かんでいない。
やはり煙草を唇の端にくわえていた。
「なんだい?言っとくが俺は何もわからないぜ。あの爺さんに聞いた方がいい」
再び歩きはじめる土岐に、伊能は追いすがりながらいった。
「僕は何か気になると、どうしようもなくなるんです。土岐さんの表情が気になって仕方がないんです」
「俺の……表情?」
土岐は立ち止って、あらためて伊能をじっと見つめた。
「万全の能力や、俺の能力を見ても、まるで表情に変化がなかったのに、退席する前に2回ほど小首を傾げながら小鼻をひくひくさせました。それから突然帰ると言い出した……何故なんですか?」
土岐は黙って伊能を見つめていた。
煙草を地面に投げ捨て、踏みにじってからようやく口を開いた。
「伊能さんっていったか?あんた、俺に気でもあるのかい?悪いが俺はモーホーの気は無いんだ」
「とんでもない。僕はこれでも妻子持ちです」
「じゃあ、なぜ俺の面なんか見ていたんだ?」
土岐の口調に僅かに刺のようなものを感じて、伊能は慌てて手を振った。こんなときににっこりと笑えたらいいのにと思った。
「僕はこれでも優秀なセールスマンなんです。いや、でした、と言った方がいいかな……人の表情や仕草を観察して、相手の気持ちを読むのが得意でした。ところが土岐さんに関してはまったく分らない
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