ご招待にはご招待を 九月初旬のこと。晩酌でほろ酔い機嫌の夫は、掛かってきた娘からの電話のことで、ぼやきはじめたのです。
馬鹿にしとる、誰がおじいちゃんやねん。あんたはおばあちゃんに間違いないけど、ぼくは、まだ六十云歳の壮春真っ只中。敬老の日に保育園で『おじいちゃんおばあちゃん、ありがとうパーティー』があるから来いやなんて。何が悲しうて東京くんだりまで行かんならん。子供が遊戯と太鼓叩きで出るからぜひになんて親馬鹿もええとこ。ちょっと梅田から天王寺までとは訳が違うんやで……。
という風に大変な鼻息なんです。ですが、どうもうちの殿方は現実的で夢がございません。私のほうはついてに話題の新都庁舎にも行けるとほくそ笑むのですが、入り込む隙もないくらいの権幕でぼやきはつづきます。
一体、交通費と労力と時間はどうなるんや。あんたと二人エコノミー切符で往復四万数千円かけて東京駅へ、それから山手線に乗って西武池袋線に乗って満員バスに乗ってしめて五時間。すぐ隣は埼玉県やないか。ああ、不便不便。何であんな辺地に嫁にやった、あのときあんたが娘の肩を持ったからこんなことになったんや。東京へなんか行くもんか。
ところで夫は定年後から陶芸を習ってまして、歪なのから斑なのからぐい呑みから花瓶の類まで、うさぎ小屋のわが家に鎮座まします有様。あのぼやきから二・三日後のことでした。夫は大きな一つの壷を抱えて帰り、これぞかつてない傑作品、先生も褒めて下さった、来る十五日の文化祭に出品するぞと大変なご機嫌。ここで夫はひざをポンと叩き、さあ娘に見せたい招待するんだと受話器を握りました。即、娘は断ったというのです。なのに清々とした顔付きで負け惜しみを言いました。この間の仕返しをしてやった!と。
この父娘の確執たるや。この不完全子離れの親にしてこの不完全親離れの娘あり、ああやるまじきは娘を転勤族にという事か。
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