前髪前髪は防御壁のようなものだった。
たくさん延ばして 両側に分けたこともなければ
短すぎるほど切ったこともなかった。
目の上ギリギリあたりで切る以外には考えたこともない。
長すぎておでこが見えるとか
短すぎて眉毛が見えるとか
それは、膝上20センチのスカートをはいているのと
同じくらい心細いものだと思っていたから。
風通りがよすぎて
何も隠せない感じがして
そういう髪は苦手だった。
福岡に、彼がお気に入りになった美容院があって。
インテリアにもこだわりのある美容院で。
まさに表参道並の"美容院激戦区"にあるのに、
まるで入ることをためらわれる小さな窓に
アンティークな木の扉。
美容院ではありえない、煉瓦の床。
はいった瞬間、「あ、間違えました」と言って
扉を閉めてしまったほどの、変わった美容院だった。
何気ないインテリアが、落ち着く感じで、
押しつけのないこだわりが見える店だった。
うん、彼が気に入るの、わかる気がする。
物静かに面白い言葉で語りかける店長さん。
「ちょっと、任せてもらってもいい?」
そう言った。
痛みきった髪は、自分では手が付けられないから。
もう、どうにでもなれ、と思って。了解した。
ジョキジョキ。
うげっ
わたしの防御壁は、いとも簡単に崩れ去った。
眉毛よりはるか上、おでこの真ん中あたり。
ばっさりと切られた。 前髪。
床に落ちたものは、もう戻らない。
そう思ったら、ほんとにどうでもよくなった。
似合うと思って切ってくれてるのなら。
お任せしますよ、店長さん。
果たして、モンチッチのいっちょあがり。
彼の反応。
うひゃひゃひゃっ かぁ~わいいっ。
その夏以来、自分の髪型について注文をつけなくなった。
椅子に座って「おまかせします。」
店長さんと彼の間で、密約(?)があるらしい。
月に一度、美容院に行く。
彼と同じ、美容院に行く。
彼が大好きな
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