契約はどこまで有効か まず,行為基礎論についてご理解を。
人は,法律行為とくに契約の締結に際し,行為時の事実関係・法的関係が存続し,または将来一定の事実は発生しないことを前提に行動する。このような法律行為の前提となる事実や法的関係を,行為基礎という。もし想定外の事実があったことが判明すれば,行為の基礎が崩れる。かりに法律行為の基礎となった前提が崩れると(事実に反していた),自ら行った法律行為の効果を,事実に適応してあらため,あるいは法律行為(例えば契約)を解除させるのが,信義則上妥当,ということになる。このように,信義則に基づく具体的な理論が行為基礎論。あるはずのない権利をあるものと誤信して譲り受け,対価を払う。契約でも裁判上の和解でも,このようなこともあり得る。すでに権利が存在しなくなっているのに,譲渡したり,和解することは譲渡や和解行為の基礎を欠くことはご理解いただけよう。ドイツ民法には,和解契約は,契約の内容上確定していることとして契約の基礎に置かれた事実が真実に合致せず,かつそのことを知っていたならば争いにならなかったであろう時は無効である,という条文がある。行為の基礎を欠くからだ。わが民法95条は法律行為の要素に錯誤があれば無効という。行為基礎はその法律行為に至る前提条件であるから,より強い理由で無効になる道理である。
さて,結婚(婚姻)も両性の合意に基づく法律行為。結婚前に様々な嘘をつき,首尾良く結婚を果たした後,嘘がばれたときに,行為基礎を欠くから結婚は無効だ,といえるのだろうか。答えは,嘘の内容によりけりだと思う。妻がいるのに独身だ,と嘘をいう。重婚は禁止され,強行法規違反であると同時に,行為基礎も欠く(と言っても,当然無効にはならず,重婚の取消を請求できるだけである。結婚という既成事実を無かったことにできないからである)。借金まみれなのに金持ちだと嘘を言う。でも,金持ちだからこそ結婚したのだとは言えまい。嘘のつく人格を見抜くことも結婚に必要な配偶者としての要素だ。嘘をつき,つかれないよう理解を深めることが相手を責めるより,もっと大切。騙されたといって,文句いうばかりが,能ではないだろう。嘘が離婚事由になるかすら,疑問。配偶者の親の面倒は見なくていいという条件だったのに,その後の事情変更で見なければならなくなったというのはどうか。結婚時に嘘はなく面倒を見る事実もなかったのだから,行為基礎を欠いているわけではない。事情が変わり,面倒を見なければならなくなったとしても,契約違反とまでいえない。同居の親の扶養の義務は,この配偶者も負う(730条)。どうしてもいやなら,協議離婚するしかない。身分行為の無効原因は限られている(742条)。だから,一般法理を持ち込むことはできない。まず,人の結びつきは元に戻りにくい。そもそも,長短を問わず結
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